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INTRODUCTION

 濱口竜介監督と共同執筆した『ドライブ・マイ・カー』が米アカデミー賞脚色賞にノミネートされ、話題沸騰の配信ドラマ「ガンニバル」の脚本も手がけた大江崇允。いま世界が注目する映画作家が、リアルとバーチャルが混濁する現代の寄る辺なさを、ミステリアスな迷宮ファンタジーに昇華させた最新監督作が『鯨の骨』だ。

 結婚間近だった恋人と破局した不眠症の間宮は、マッチングアプリで唯一返信をくれた女子高生と会うが、女子高生は間宮のアパートで自殺してしまう。うろたえて山中に埋めようとするも、気がつけば死体は消えていた。間宮はARアプリ「王様の耳はロバの耳(通称ミミ)」(※注釈)の中で、死んだ女子高生と瓜二つの少女“明日香”を発見する。“明日香”は「ミミ」を通じて再生できる動画を街中で投稿し、動画目当てのファンたちが街を徘徊するカリスマ的存在だった。 “明日香”の痕跡を追いかけるうちに、現実と幻想の境界が曖昧になっていく間宮。いったい“明日香”とは何者か? 彼女は死んだ少女と同一人物なのか? そして本当に存在するのだろうか?

 海の底には、“鯨の骨”の栄養を求めて群がる魚たちがいるという。“明日香”をさがす人々も、半バーチャル世界の底に潜り込み、ほのかな光を求めて集まってくる。果たして彼女は救いをもたらしてくれる希望か、それとも現実から目をそらし続けるための底なし沼か。誰もが確実ななにかを欲しながら、見つけられずにいる時代の不安定さを反映しながら、ときに切実に、ときにユーモラスに展開する“少女探し”。気がつけば、遠い他人ごとに思えていた“間宮”や“明日香”と自分とのリンクが見えてくる。今を生きるすべての人を巻き込む、大江崇允のシュールで挑戦的な仕掛けに翻弄されてほしい。

 まったくの未知だった拡張現実アプリにはまり込んでいくサラリーマン、間宮を演じたのは『桐島、部活やめるってよ』『素敵なダイナマイトスキャンダル』の落合モトキ。子役からの長いキャリアを持つ実力派が、無気力とナイーブの狭間を漂う主人公を好演。そして間宮のみならず、孤独なひとびとを引き寄せる“明日香”には、強烈な個性で注目を集めるミュージシャン、あのを起用。“あの”という存在が象徴している今の時代の空気がみごとに役に生かされており、とらえどころのないカリスマ性で唯一無二の魅力を放っている。
また、明日香に憧れ、「ミミ」内で新たなカリスマを目指す女性、凛役に横田真悠、間宮の恋人、由香理役に大西礼芳、明日香の熱狂的な信者、しんさん役に宇野祥平が扮し、脇を固めている。

※ARとは?
ARとは「Augmented Reality」の略称で、日本語では「拡張現実」を意味します。現実世界での体験にデジタル情報を重ね合わせ、新たな価値を生み出す「XR(Cross Reality)」と呼ばれる先端技術のひとつ。
ARアプリの主な例として『セカイカメラ』『ポケモンGO』などがあります。

※アプリ『ミミ』とは?
劇中に登場する、位置情報を元としてスマホカメラ画面で撮影した自分の動画を撮影場所に残せるサービス。また、ミミを起動することで、その場所に残された動画を再生することができる。名前の由来となったあのお伽話のように、秘密や愚痴を垂れ流し、それで街を埋め尽くそうという悪意のコンセプトで作られたジャンクアプリ。

STORY

STORY

結婚式を間近に控えたサラリーマンの間宮(落合モトキ)は、ある日突然、婚約者の由香理(大西礼芳)から浮気しているとカミングアウトされて破局してしまう。なかば自暴自棄になった間宮は、職場の後輩の松山雄司(内村遥)から教わったマッチングアプリに登録。唯一返信をくれた若い女性(あの)と喫茶店で待ち合わせる。
車で自宅のマンションに向かいながら、間宮は相手がまだ女子高生であることに気づく。一瞬躊躇するも、どこか挑発的な少女の誘いについ乗ってしまう。しかし先にシャワーを浴びている間に、少女は大量の薬を飲んで自殺してしまっていた。死体の傍らには、「さようなら 冷めないうちにどうぞw」と書かれたメモが置かれていた。
慌てて救急に連絡するも、うまく説明できずに電話を切ってしまう間宮。うろたえながらも証拠隠滅をはかり、死体を山中に運んで埋めようとするが、穴を掘っているうちに、車のトランクに入れていたはずの死体は消えてしまっていた。
途方に暮れつつ自宅に戻ると、部屋には少女のカバンが残されていた。開けてみると、予備校の教材やナイフが入っていたが、少女の身元がわかるようなものは何も見つからない。
間宮は罪の意識と死んだ少女の幻影に怯えるようになり、仕事にも身が入らなくなってしまう。ある夜、近所の公園でひとり缶コーヒーを飲んでいたら、ネットアイドルの凛(横田真悠)と彼女のファンたちに話しかけられる。彼女たちは「王様の耳はロバの耳(通称ミミ)」というARアプリにハマっているという。誰かが「ミミ」を使って映像を投稿すると、ユーザーはその映像を撮影された場所でだけ再生できる。凛たちは「ミミ」に投稿するための映像を撮っていたのだ。

STORY

凛から「ミミ」ユーザーたちのカリスマ、“明日香”の存在を知った間宮は、その姿を見て驚く。自宅のマンションで自殺した少女と瓜二つだったのだ。“明日香”は、街のあちこちで自分の映像を投稿しており、“謎の美少女”として熱狂的なファンを得ていた。ファンたちは街を徘徊しながら、“明日香”の痕跡を見つけることに夢中になっていた。
間宮は、消えた“明日香”の行方を知ろうと、新しく投稿された映像を探し始める。そんな間宮を、“明日香”のファンたちは“新規さん”と呼んで歓迎する。しかし“明日香”の投稿は間宮と会った日を最後に途絶えてしまっていた。間宮は“明日香”が投稿した映像を探しながら、ときに寂しく、ときに優しく、場所ごとにガラリと印象を変える“明日香”に魅了されていく。
“明日香”の痕跡を追いかけるうちに、現実と幻想の境界が曖昧になっていく間宮。いったい“明日香”とは何者か? 彼女は死んだ少女と同一人物なのか? そして本当に存在するのだろうか?

CAST

Ochiai Motoki

1990年7月11日生まれ、東京都出身。近年の主な映画出演作に『ヒーローショー』(10)、『桐島、部活やめるってよ』(12)、『日々ロック』(14)、『娚の一生』(15)、『天空の蜂』(15)、『裏切りの街』(16)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18)、『AWAKE』(20)、『FUNNY BUNNY』(21)、『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』(21)、『背中』(22)、『美しい彼 eternal』(23)、『魔女の香水』(23)、『Gメン』(23)などがある。

Ano

9月4日生まれ。2020年9月より「ano」名義でのソロ音楽活動を開始。2022年4月 TOY’S FACTORYよりメジャーデビュー。2023年にリリースした「ちゅ、多様性。」や「スマイルあげない」が大ヒット。音楽活動に留まらずタレント、女優、モデルとマルチに活躍中。主な映画出演作は『咲-Saki-』(17)、『血まみれスケバンチェーンソーRED』(19)、『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』(19)、『サイレント・トーキョー』(20)などがある。

Yokota Mayuu

1999年6月30日生まれ、東京都出身。「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(19/NTV)で女優デビュー。主な映画出演作に『踊ってミタ』(20)、『いとみち』(21)、『君が落とした青空』(22)、『カラダ探し』(23)などがある。「non-no」の専属モデルとしても活動し、TBS「ラヴィット!」(TBS)にて木曜レギュラーを務めるほか、人気バラエティ番組「世界の果てまでイッテQ!」(NTV)の「出川ガール」としても活躍中。

Ohnishi Ayaka

1990年6月29日生まれ、三重県出身。近年の主な映画出演作は『ナラタージュ』(17)、『きらきら眼鏡』(18)、『菊とギロチン』(18)、『嵐電』(19)、『スタートアップ・ガールズ』(19)、『花と雨』(20)、『痛くない死に方』(21)、『夜明けまでバス停で』(22)などがある。2023年のTVドラマ主演作「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」、「風間公親-教場0-」も話題に。

Uno Shohei

1978年2月11日生まれ、大阪府出身。近年の主な映画出演作に『罪の声』(20)、『星の子』(20)、『いとみち』(21)、『シュシュシュの娘』(21)、『前科者』(22)、『ビリーバーズ』(22)、『アキラとあきら』(22)、『銀平町シネマブルース』(23)、『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(23)、『almost people 長男のはなし:"Voice Recorder"』(23)など。公開待機作に『こいびとのみつけかた』(10/27公開)、『正欲』(11/10公開)、『市子』(12/8公開)などがある。

DIRECTOR

Oe Takamasa

1981年、大阪府出身。映画作家。
近畿大学で演劇を専攻し、大橋氏よりフランスの演技システムであるルコック・システムを学び、卒業後も演出や俳優として舞台作品に携わる。その後、映画制作を始め、監督・脚本として活動。
監督・脚本映画に『美しい術』(09)、『適切な距離』(11)がある。ドラマでは演出『君は放課後、宙を飛ぶ』(18/TBSサービス・東映)、『すべて忘れてしまうから』(22/Disney+)、脚本では『恋のツキ』(18/TX)、『ガンニバル』(22/Disney+)など。
映画『ドライブ・マイ・カー』では共同脚本を手掛け、濱口竜介監督と共に、カンヌ国際映画祭や日本アカデミー賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞などで脚本賞を受賞。
監督・脚本の新作映画『鯨の骨』(23)が2023年10月13日より劇場公開。
鯨の骨